The Highly Sensitive Person

Quiet Leadership

静かなリーダーシップ

By admin - 21 Comments

訳者より:今回はTracy Cooper博士によるゲストブログです。氏はHSP/HSSに詳しい心理学者で、映画Sensitive-TheUntold Storyに、他の多くの研究者と共に出演しています。

ここが”肝心なんだが、誠実で繊細な人間は誰かに手を差し伸べようとする。だが商人たちは相手を食べてしまおうとするんだ。それも食いつくまでね。”

―フョードル・ドストエフスキー

 COVID19の爆発的感染によって始まった2020年、世界は混乱し、私たちは前例のない出来事(少なくとも私たちの世代にとっては)に遭遇している。世界全体が激しく動揺する中、それぞれの国はロックダウンや国民を養う道を必死に模索、そして新しい現実に即した経済のあり方を見つけ、適応しようともがいている。

 でもこの旋風に巻き込まれながらも、私たちHSPは、いろんな意味でうまくこの状況に適応しているように思える。特に、他人との交流が少なくなってしまったことについては。これは、私たちの多くが内向的で、しかも生まれつき注意深く、慎重だからなのでしょう。そしてたいていのHSPは、これまでも起こり得る最悪の状況について、時間をたっぷりかけて考えてきました。だからCOVID19は、私たちに対して、他の人たちほど、日常に大きなダメージやストレスを与えていないかもしれません。このような最悪の可能性について考えるのが、なんといっても私たちHSPなのですから。そして今、私たちが持つこの“感覚処理感受性(sensory processing sensitivity)”が、このような事態に対して多くの点で向いていることがわかったら、これはこのパンデミックの意味について深く考える大きなチャンスになるかもしれません。と同時に、あるタイプのリーダーシップについて考えるチャンスかもしれない。そのリーダーシップとは、他者への奉仕をベースにしたリーダーシップで、私はこれを“静かなリーダーシップ”と呼んでいます。

 静かなリーダーシップは、召使にルーツを持つリーダーシップです。といっても服従という意味の召使ではありません。自分のエゴを脇に置いて、他者に奉仕するという意味での召使です。彼らは自分以外の人たちの可能性を育て、成長させるために働きます。この2020年において、これまで目立たない場所で活躍していた静かなリーダーたちは、陽の当たるステージを与えられ、世界へ影響力を発揮し始めている。私は自分のフェイスブック@tracycooperphd に、“今こそボーディサットヴァ(菩薩)たちが幸せを広め、苦痛を慰める時”という内容の記事を投稿しました。ボーディサットヴァとは仏教の教えで、尊厳と勇気を持って生きることを誓い、どのような場所においても周囲に優しい光を放つ人たちのことです。静かなリーダーとは、簡単に言えばこのボーディサットヴァのような人たちのことです。彼らは、自分のエゴやその場限りの興味本位からではなく、愛と理解という動機から、自分が成長するために、他者のために働く役割を自ら担おうとします。

 そして静かなリーダーシップは、HSPが心地よいと感じられるようなリーダーシップではないかと私は思っています。なぜかと言うと、このスタイルだったら、人々の注目を集めなくてすむし、判断することも限られ、また攻撃的なやり方や支配的なやり方をせずにすむからです。それどころか、あなたにとって好ましいやり方で、他の人たちに助言したり、導くことができる。相手の中で花開くのを待っている、可能性や才能を彼ら自身に気づかせる、そんな方法で。静かなリーダーたちは、目標を達成し、実現可能なリーダーシップをどう選ぶかということに価値を見出しながら、他人の成長に役立つ土壌を提供するのです。

 私が、HSPのワークを通して出会ったHSP男性たちも、すでに、パワーやコントロールとは正反対の、心で動かす方法で、リーダーシップを発揮し始めています。頭でリードするだけでは不十分。頭と心でリードしなければなりません! もし私たちが、このパンデミックによって、あらゆる現実に直面させられているのであれば、効率的な直線的アプローチだけでは、現実の人々の現実の生活に伴う複雑さや、微妙なことは取りこぼしてしまうでしょう。私たちHSP男性だったら、権力を用いることがあったとしても、相手に自信を与えたり、支えるような方法を選び、同時にそれによって次世代のリーダーを育てようとするでしょう。

 今私たちに求められているのは、この不確実な時代に、私たちの取り組みが公正かつ公平なものとするために、心と頭でリードしていくこと。そして、この限りある時間を当たり前のものとせず、人生を意味のあるものにしたいという欲求をかなえていくことです。自己決定理論では、人が幸せで豊かになるためには、必要不可欠な重要な欲求があるとされています。そして、静かなリーダーシップの精神性が実現しようとするのが、まさにその欲求なのです。その3つの欲求とは・・・

  • 自律性―自分で自分の人生を監督し、全体的な自己と調和して行動していると感じられること。
  • 有能感―やりとげることができるという感覚。そのための熟練したスキルと能力、才能を持っている。
  • 関係性―他者と関わり、つながりや、思いやりを体験したいという欲求。

 自己決定理論にはこれ以外にも、内的動機づけというものがあります。内的動機づけとは、私たちが、外部の要因ではなく、自分が関心があることに動かされて、自ら選択して行動する時、その取り組みは私たちにとって本当の意味で価値あるものだと感じられる、というものです。だから内的動機づけは、私たちの人生における、生きがい、充実感、関わり、喜びの本質だと言えます。静かなリーダーシップのこの時代、ボーディサットヴァたちは夜7時、怒鳴られたり、拍手を送られたりしながら、食べ物に困っている人々に食料を送り届けています。そして他のリーダーシップスタイルが、なんとか早く元の生活に戻ろう戻ろうと慌てふためいている時、彼らは厳しい状況の下で、冷静さを保ち続けています。

 HSP、HSS/HSP、HSP男性、その他様々なタイプのクリエイターと働いてきた、静かなリーダーとしての私の経験は、私のもうひとつのキャリアであるベイカー大学で大学院生たちとの関わりによって補完されてきました(この大学で私はプログラム委員長そして教員として働いています)。この大学にいる時、私は教員として、私の敏感さやまだ使われていない能力を、(このコロナ禍での)生活に不安や退屈を感じたり、あるいは動揺したり、疲弊している多くの学生たちに、どのように注いだら良いか考えなければなりませんでした。オンライン授業という環境の中、学生たちと繋がったり、参加してもらうための対策を考えることは、私にとってチャレンジでした。でもそのうち、学問的な目標を大切にしつつ、彼らの不安な気持ちに共感しながら彼らを指導・教育することが、私の人生が豊かにしてくれていることに気がついたのです。

 私たち静かなリーダーが提供できる忍耐強い指導や育成は、このパンデミックの中、重要な意味を増してきている。いえ、もしかしたら、どんな時代でもそうなのかもしれない。人々はいつでも、心と頭を中心に据えたリーダーシップを求めているのだから。

ウェブサイト;
drtracycooper.wordpress.com

本:
Empowering the Sensitive Male Soul
Thrive: The Highly Sensitive Person and Career
Thrill: The High Sensation Seeking Highly Sensitive Person


訳者メモ:
 あまり日本では報道されていませんが、現在アメリカではパンデミックによる「飢餓の波」に襲われています。8人に一人が飢えの危機に直面し、食料配給の現場には、長蛇の列ができているといいます。おそらく、トレイシー・クーパー氏のワークに参加したHSP男性の多くが、この配給の現場でリーダーシップを取っているのかもしれません。
 また、”今私たちに求められているのは、この不確実な時代に、私たちの取り組みが公正かつ公平なものとするために・・・・・・していくこと”の部分は、最初訳していてどういう意味だろう?と思ってましたが、現在のワクチン争奪戦などのニュースを見ていて、なるほどと思う部分が多かったです。このブログはそうした社会背景を前提に書かれています。
 なお、このブログへのコメントとして、どうして静かなリーダーシップを取っているHSP女性について言及がないのか、という意見が少なくなかったこともつけ加えておきたいと思います。

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