The Highly Sensitive Person

Graceful Boundaries Part IV: Boundaries in Dating and Close Relationships

優美な境界線 パートIV - 交際中あるいは親密な関係における境界線

By Elaine - 7 Comments

 これまで見てきたように、境界線はとても広範囲に及ぶテーマです。もちろん親密な関係においてもしかりです。ですから、ここでは友人関係や家族関係以外の、”恋愛”関係(交際をスタートしたばかりや、長い関係もふくめて)を中心にお話ししていきたいと思います。と内容をしぼってみたにもかかわらず、書いたらとっても長くなってしまいました。そこで、さらに内容を削って、”恋愛”関係の内の、交際中の間だけにしぼってご紹介しようと思います。ただ内容は、誰かと親密になっていく段階の、ほとんどすべての関係に当てはまるでしょう。もちろん交際をスタートしたばかりの時にも当てはまりますよ。

 もし、いまあなたが恋愛関係になかったとしても、ここで紹介する考え方や提案の多くを、他の様々な親密な関係に当てはめてみることができます。また過去の関係についても洞察を得ることができると思いますよ。

愛そして自己(セルフ)の拡張

 夫のアートは、大学院の頃から親密な関係についての研究を続けています。私たちがカリフォルニア大学のバークレー校で出会ったのもその頃、たしか1967年あたりです。その研究には、何度か私が参加したこともあります。彼が途中瞑想の探求に没頭して、10年間その研究を中断した時期がありましたが、彼が再び親密な関係のテーマに戻ってきた時、私たちは一冊の学術的で理論的な本 Love and the Expansion of the Self: Understanding Attraction and Satisfaction(未邦訳:直訳すると”愛そして自己の拡張 ― 人を惹きつける魅力と満足感への見解)を書き上げました。出版は1986年で、ちょうど私がHSPに関心を持ち始めた時期です(この本をアマゾンで買おうとなさらないで下さいね。ペーパーバックで400ドル、ハードカバーで200ドル以上します!)。

 この本は、当時ほとんど無名だった二人の心理学者によって書かれ、しかもヴェーダ語のテキストをベースにしていたにもかかわらず、親密な関係の研究分野において非常に多くの議論と研究を巻き起こすことになりました。そして自己拡張理論とそこから発生したInclusion of the Other in the Self (IOS) Scale(心理的重なり尺度、IOS尺度)は、その後、数えきれないほどの論文と学会発表を生み出しています。

 もしお疑いでしたら、ぜひグーグル・スカラーで“self expansion(自己拡張)” “Aron self expansion(アーロン 自己拡張)”、もしくは” IOS Scale(IOS 尺度)”で検索してみて下さい。IOS Scaleは多くの学術研究論文で少なくとも3000回引用されていますし、先ほどの入手困難な本は、現時点で984の論文に引用されています(グーグル・スカラー調べ)。そして自己拡張理論のアイデアもまた、拡大解釈されるようになりました。その中にはとてもおかしなものもあります。ブランドそのものが自己拡張だとか、スマホや冗談を話す相手まで自己拡張である、といったようなものまで。

 どうしてこんなことばかりを話しているの? と、みなさん思われているでしょうね。でももうちょっとお付き合いください。この本には大きく二つのアイデアがありました。ひとつは、我々はみな、自己を拡大したいという動機を持っているというアイデアです。知識や自分の可能性を広げたい、所有するものコントロールするものを大きくしたい、あるいは単に自尊感情を高めたいという動機です。こう話すととても貪欲で利己的なように聞こえるかもしれません。しかし自己拡張は主に、他者を愛することを通して行われます。最初は恋に落ちることによって、次はその関係を通して自己拡張を続けることによって。

 IOS尺度は、人が相手をどの程度自己に内包しているかを見るための尺度です。簡単な数組の重なり合った円の図でできています。回答者のカップルたちは、自分たちの関係に一番当てはまると思う円を選びます(ネットで”IOS Scale Aron”で検索するとこの図を見ることができます)。これらの円の重なり具合は、互いの境界線、あるいは互いをどの程度内包しているかを示しています。ほとんどの人は関係の重なりを中程度に示す円を選びますが、ほんの少しだけ重なっている円を選ぶカップルもいれば、ほとんど全体が重なっている円を選ぶカップルもいます。そしてもちろん、2人の選んだ図がとても異なっている場合もあります。

境界線と非境界(際限のなさ)

 すべての発端となったヴェーダ語のテキストについて言えば、それはこんな一節でした―夫への妻の愛(と思えるもの)は、夫へのものではなく、セルフへの愛である。子どもへの愛、富への愛、その他もろもろの愛も、すべて”相対的”な世界の一側面への愛にすぎない(ブリハッドアーラニヤカ・ウパニシャッド4.V.1)。ソクラテスもまた、彼のアイデアを記録したプラトンによれば同じようなことを話しています―すべては非具象(unmanifest)に対する無意識の渇望であると。この非具象とは、純粋な非相対的世界、純粋意識、神意識、悟りなどと様々な呼ばれ方をされているものです。今私たちはここで境界線について話していますよね。では、境界がない(際限のなさ)とは(上のような考えに基づけば)どのようなものだと言えるでしょうか。おそらくそれは、究極の優美な境界線です。

 ソクラテスやウパニシャッド(そして知恵の伝統(永遠の伝統)と呼ばれるもの)によれば、利己的なもの、そして自己拡大の側面への愛は、すべて大いなる自己へと至る階段だと言えるかもしれません。私たちの子どもの頃、よくポニーを欲しがりませんでしたか? でもポニーを手に入れても、少し大きくなると興味を失い、今度は車が欲しくなります。あるいはガールフレンドやボーイフレンドかもしれません。でも恋人を得ることができたとしても、いつか私たちは別れ、もっとふさわしい相手を探しに出掛けます。そして結婚する。でもその相手や結婚生活に慣れてしまうと、今度は子ども、あるいはもっといい仕事、もっとたくさんのお金、もっといい車、あるいは世界中を旅してみたくなるかもしれません。そしてしばらくの間お互いを享受しますが、それも永遠に続くことはありません。そしてもっと不運な人生だったら、途中で挫折してしまうかもしれません。でも中にはその状況を打開し、大きく飛躍する人たちもいます。なぜでしょう? 繰り返しますが、ウパニシャッドによれば、私たちを完全に満足させるものは”相対的”な世界の中にはなく、どれも限定的で、いずれ私たちはそれに慣れてしまうからです。

 私たちはこうしたことを際限なく体験することが”可能”です。本当です。(実際)多くの人がそうしている。そしてそれらが達成可能な目標だと気がつくと、多くの人にとってそれだけが唯一の目標となってしまいます。人生には他にも実現できることや楽しめるものがあるのに・・・。でもそれは大切なものを見失っているにすぎません。私は(それに気づけたことで)ささいなことを手放すことが楽になりました。そこには人間関係はこうでなければならないとか、相手はこうでなければならない、といったことも含まれます。そういったものは”すべて相対的”だからです。それをイメージしてもらうために、今日の私たちにとって大きな問題となっていることを紹介しますね。

どれくらい親しくなりたいか(近づきたいか)

 まずは交際中の時のことについて簡単に。誰かと付き合い始めた頃は、先ほどご紹介したIOS尺度の二人の円はどんどん重なっていきます。この時、急速に自己が拡張しているという感覚によって、素晴らしい感覚を味わいます。他者を自分の中に取り込む時、人はいつもこうなります。もちろん、障害となるものもでてきます。住んでいる場所が離れている、セックスに対する境界線、政治信条、食習慣・・・。これらが円が重なり合わない部分かもしれません。ほとんどのHSPは、親密さを高めるステップに入る前とても慎重になるので、関係を持つまで手間取るでしょう。ただその分、例えばセックスの領域においては、HSPの女性は非HSPの女性と比べて慎重であるがゆえに、悪い経験や怖い思いをすることが少ないと話しています。これは私たちの性質が功を奏しているのでしょう。ただHSPと言えどもミスはおかします。だからなるべく、誰からも急かされないようにしましょう。あなたが正しい決定をすることは、彼らにとっても最善なことなのですから。

 当然のことですが、交際中もしくは結婚後のカップルどちらにおいても、どれくらいお互いに近づきたいか―先ほどの円で言うと、どれくらい多く重なり合いたいか、そしてどれくらい重ならない領域を残しておきたいか―は異なります。例えば物理的な境界線であれば、同じベッドで寝るカップルもいれば、別のベッドで寝るカップルもいます。町をはさんで別々に家を持っているカップルだっているかもしれません。感情的な境界線についてどうでしょう? あなたは、なんでも打ち明け、深く繋がり合いたいと思いますか? それともお互いの知らない部分を大切にする方がいいですか? 仕事の境界線はどうでしょう? 役割はひとりでこなしたい? それとも一緒にやりたい? 一緒にビジネスを運営しているカップルもいれば、そんなこと考えられない、パートナーと一緒に仕事をするなんてとても無理、と話すカップルもいます。時間に関する境界線も無論あります。あなたはどれくらいたくさん一緒に相手と過ごしたいですか? 同じくお金も。”時は金なり”と言うでしょう? 財産を共有にしたいですか、それとも分けたままがいいですか? それ以外も、共通の趣味を楽しむカップルもいれば、それぞれが自分の好きなことを楽しんでいるカップルもいます。一人が釣り旅行に出かけている間、相手は陶芸を楽しむとか。こういったことはすべて、仲の良い友人同士にも当てはまります。

 一番大切なのは、似たような考え方や価値観をどれくらい相手とシェアしたいか、あるいは持ちたいか、です。ほぼすべてのことに対して同じような考え方を持つカップルもいれば、ほぼどれも異なっているカップルもいます。例えば宗教や政治(アメリカでは、あぁ!(政治は)赤と青で色分けされている)、あるいは異なるスポーツチームなどで(あるいは“スポーツ好き”vs”スポーツにまったく無関心”)。

 もうひとつ、潜在的で重要な違いがあります。それは、カップルとしての二人と、他の人たち間の境界線の程度を、それぞれがどのように考えているかです。二人とも他人を家に招くことが好きですか? 二人とも外交的? 一人は外交的で、一人はそうじゃない? パートナー以外の誰かとなれなれしくしたり、あるいは性的な空想を抱くことについてはどうでしょうか? さらに言えば、相手が他の誰かとセックスすることはOK? セックスはするけれど、でも相手には言わない? あるいは、絶対にしないけれど、仮にパートナーがしたとしたら動揺する?(性的空想については、空想することと相手に話すこと、あるいは実行に移すことの間には大きな違いがあります) パートナー以外に一番の親友を持つことについてはどうでしょう? それは二人にとって良いことですか? 相手がその場にいる時あるいはいない時も、パートナーのことを他人に話すときは、例えば彼らの親やあなた自身の親、仲の良い友人に話すときは、気を使っていますか? それとも、守秘義務について二人とも気を使わないし、お互いにそれを期待していない?

 こうした違いが、いつしか、相手への尊重の欠如につながるかもしれません。愛と尊重は、ある意味同じです(私にとっては)。ですから場合によっては、こうした境界線の違いが、関係を終わらせてしまうこともあるのです。しかも破局に至るまで、お互いがどれくらい違うのかについて、二人の意見が異なったまま。境界線をどこに敷くかについて、これまで多くの場合、私たちは自分の家族や所属する文化から学んできました。“夫婦は違っていて当然”あるいは“上手くやっていきたいなら、そして幸せでいたいのなら、夫(妻)に合わせるが当たり前”等々。でも現代では、境界線の取り扱いについて、関係の中で試行錯誤しながら学んでいるように思えます。ですからもし二人が、それが二人に合った境界線だと合意しているのなら、良い悪いはないのではないか、と私は思っています。

 肝心なのは、交際初期や、関係が変化したり成長する時期は、相手との境界線をどうしたいのかをはっきりさせることが、あなたにとって大切だということです。このことが二人の関係を変化させてしまうかもしれません。でも、あなたがこうしたいという希望を何も持たず、相手ばかりが持っていたら、当然、相手の希望に沿ったものに関係は変化していってしまうでしょう。また、あなたがHSPとして明確な希望を持っていても、それを少し変に感じたり、できる限り相手を不満にさせたくないと思っているかもしれません。もし、あなたがこういったことをこれまで考えたことがなかったら、今がその時期かもしれません。物理的、感情的、仕事関係、一緒に過ごす時間、金銭管理、そして趣味・考え・価値観の共有など、あなただったらどのような境界線を持ちたいと思いますか?

親密な関係における潜在的な境界線の問題

 今度は親密な関係にある二人の場合です。二人はどこで問題にぶつかるのか? まずは刺激過多とダウンタイムの問題から見ていきましょう。刺激過多になる、神経の高ぶりすぎを起こす、ストレスがたまる、”疲れてイライラする”、あるいは、とげとげしい沈黙で周囲をシャットダウンする、そうなった時、私たちHSPに必要なのは休息です。刺激から離れて一休み。ダウンタイムです。時に、私たちはダウンタイムを必要とするあまり、他の人たちの境界線などどうでもよくなってしまう場合があります。そして相手の愛情すら感じ取れなくなってしまいます。”みんなほっといて!”と。でも、実際には、ダウンタイムを取るために、サポートや励ましをしてくれる大切なパートナーをあなたには必要としています。ダウンタイムを取ることであなたは相手を不快にさせたくないかもしれません。でもそれが二人にとって良いことだということを、あなたたちは少しづつ学んでいく必要があります。とはいえあなたが短期的に確保すべきは、いつもよりもうほんの数分多く、優美に過ごすことができる場所です。

 ダウンタイムを確保するため、あらかじめ打っておける手段もあります。パートナーには必ず、これはあなたのそばにいたくないからではない、ということを理解してもらうようにしましょう。そうではなくて、あなたと一緒にいたい、そして一緒の時を楽しみたいと思っている、でもブレイクタイムを取らないとそれができない、ということを理解してもらいます。切実にダウンタイムを求めている場合でも、時間をかけて、あなたが休息をとる場所や、どれくらい時間がかかるのかを説明します。そしてそれでかまわないかどうかパートナーに尋ねてください。もし了解がもらえない時は、少し時間を置き、深呼吸をして、交渉できるかどうか検討してみます。休息が取れるまであともう少し(休息は目の前です)。あせらずに。それでもパートナーが頑として認めない場合は・・・あなたたちの問題はもっと大きなものである可能性がある。

 ここまでのお話は、HSPではないパートナーを持っているHSPの場合ですね。では二人ともHSPの場合はどうでしょう? ダウンタイムが必要なことは二人ともわかっています。でもその時どうしても片付けておかなければならないこともあるでしょう。そんな時は、その時どちらがより休む必要があるかを検討し、交互にとらなければなりません。繰り返しますが、求められるのは柔軟な境界線です。

 これ以外に、親密な関係にあるHSPについて、境界線の問題はあるでしょうか? ひとつは、HSPが相手のニーズに譲歩し、自身の境界線を調整しすぎてしまうことが多いこと。これは、HSPの高い共感性が、相手のニーズの方が大きいと感じさせてしまうことで起こります。でも本当にそうなのか、よく考えてみる必要があります。もしあなたの方のニーズが大きいのに声を上げなかったら、関係は悪化し、相手を自己中心的な立場に追いやると同時に、相手からそれ以外のことをするチャンスを奪ってしまうことになるでしょう。

 また、HSPは対立を恐れたり、あるいは単に対立を好まないせいで、相手に譲歩しようとするかもしれません。私はこれまで、パートナーの一方が(そして子供、同僚、あるいはペットも)大げさに不満を言うことで(=大きなボリュームの使用)、おそらく無意識に、自分の思い通りにしているケースがあることに気がつきました。そのパートナーの相手がHSPだったらこれを刺激過多に感じ、引き下がってしまうでしょう。ですから、時に、あなたはこうした相手の不満に耐え、それ以上にボリュームを上げる必要があるのです。愛がランキングより優勢に立つためにも。

 ちなみに、ボリュームを上げる以外にも力を行使できる方法はあります。この方法は、あなたの人生で出会う、他の人たちへのロールモデルとしても使えます。ひとつはあなたの洞察力を使う方法です:「気づいたんだけど、今君は、別のことに不満をぶつけることで話をはぐらかしたよね。冷静に話し合いたい時、君はよくそうして逃げているように思える。特に、その状況を君が変えたくないと思っている時は。でも今回は、お互いが納得できるまで話し合いたいんだ」。はっきりと直言する方法もあります:「大げさに不満を表すことで、私に譲歩させて、自分の思う通りにしようとしてるんじゃない? でも今回はそれは通用しないわよ」。あるいは具体的な(あるがままの)事実(※)をつきつける:「生ゴミを出したくないって気持ちはわかったけど、でも今夜中にどちらかがやらなければいけないよね。これからあなたは友達と自転車で出かけるんだったら、あなたは私より疲れてないんじゃない?」。

※原文の「brute fact」には「生の事実」「裸の事実」「具体的な事実」の訳があるが、はっきりとした訳は定まっていない。生の事実は哲学の分野で使われる言葉で、それ以上説明しようのない事実のこと。例えば”この世界は存在している”といった事実のことを指す。ここでは文脈に合わせて「具体的な・あるがままの事実」と訳しています。

 ここで大事になってくるのは”非暴力コミュニケーション”です(HSPにとても役立つ方法です。マーシャル・ローゼンバーグで検索してみて)。(こんな風に聞いてみてください)「どうして生ごみを出したくないのか、よかったら訳を教えてくれない?」。そして相手の拒否の裏側にあるニーズに耳を傾けてみましょう。多くの場合、それは自律性(訳注:他者からの支配や強要あるいは助力を受けることなく、自分の行動を自分の立てた規範によって決めたいという性質)へのニーズであることが多い。相手より下位にあると感じたくない、あるいは、ガミガミ言われたり、恥をかきたくない、というニーズです。だから、もっとリンクして、もっと愛をこめてお願いすれば、解決するかもしれませんよ。「今夜は二人とも予定があるんだよね。私は休みたいと思っているし、あなたはサイクリングに出掛けたい。あなたが友達とのサイクリングを大切に思っていることはわかってる。だからすぐにでもそれをかなえてあげたいけど、自分も休みを取ることは大切だし・・・。うまく解決できる案はないかしら? あなたが出掛ける際に出してもらう、っていうのはどう? それとも次のごみの日、普通ならあなたの当番の日に私が出しておく?」

 では、逆にあなたが自分の境界線について強く主張する場合についてはどうでしょう? ”HSPとしての権利”について、あなたは熱心に、自信をもって、妥協することなしに主張していますか? ほとんどの場合それは、あなたにとって刺激過多の状況を避ける場合になるはずです。パートナーがあなたと一緒に何か楽しみたいと思っても、身体的、感情的、その他もろもろの面で、あなたは相手と異なる刺激の境界線を持っているからです。ショッピングモール、スポーツイベント、大音量のエンターテインメント・・・あなたはこうしたことは嫌いですし、パーティーや他人を自宅に招くのも好きではないかもしれません。こんな時は、境界線を柔軟にして一緒にやってみたり、時には相手のために我慢してみてもいいかもしれません。ただし、相手には、これは特別で、いつもそうではないことを必ず知らせておいてください。でも、やる時は文句を言わず、好意を持ってやりましょう。あなた自身で選択したのですから。以下に述べるように、あなたの行為は、愛やリンキングからのものであるべきで、ランキングからであるべきではありません。この場合も、心からやりましょう。ランクの高い人たちは境界線を設定しようとします。でも、ランクが低いからといって、頻繁に、あるいは常にそれを受け入れることはありませんし、また、自分の方がランクが高いからといって、“牛耳る”ようなことをするべきではありません。

 もう一つ例をあげましょう。あなたが、自分のベッドで一人で寝た方がよく眠れることに気がついた一人のHSPだとします。そしてその必要性をあなたは感じています。でもパートナーの方は、恋人同士は一緒に寝た方が自然だと感じている。そして二人の関係が順調だと感じられるためには、それが欠かせないことだと思っていたとします。この場合問題となるのは、どちらのニーズの方がより強いかです。アタッチメント(愛情)には身体表現も含まれますし、そのニーズを強く感じている人たちもいるかもしれません。そして、以下に見ていくように、もしあなたが“回避性のアタッチメントスタイル”を持っていたとしたら、それがこの状況においても問題として持ち上がるかもしれないのです。

 肝心なのは、セルフケアの名の下に、強固な境界線こそが正しいと思いこんでしまわないことです。親密な関係に欠かせないのは交渉です(ちなみに、ベッドを一緒にすると睡眠時間は少なくなるが、長生きするという研究結果があります!)。理想は、あなたたちが自分らしいとと感じられること、そしてお互いにとってベストなものを自由に選べることです。あなた自身や相手の過去の失敗した人間関係に縛られていませんか? 以前の関係、特に子供時代の関係に傷つくあまり、どうしても境界線を極端なところに敷かざるを得ない人たちもいます:めったに一緒にいない、あるいはいつも一緒にいる。決して相手に合わせない、あるいは何に対しても合わせてしまう。決して感情を表さない、あるいは感情をこらえられない。前述の円で言えば、まったく重なり合わないか、完全に二人が重なることを望まずにはいられないかです。どうして極端になってしまったのか、そして、どうしていつもランキングが中心になってしまうのか(愛ではなく)を、二人で話し合ってみましょう。

アタッチメントスタイルとHSP

 お気づきの方もいるかもしれませんが、“ランキング&リンキング(リンキング(繋がり・結合)を、リンキングもしくは愛のレベルとして考える)”そして“アタッチメントスタイル”の二つは、私のお気に入りのテーマです。というのは、実際この二つは、親密な関係における同じ題材だと言えるからです。もし不安定なアタッチメントスタイルを持っていたら、親密な関係において適切な境界線を持つことはとても難しくなるでしょう。

 というわけで、今度はアタッチメントスタイルについてです。我々はこのスタイルを幼少期に身につけます。これはアタッチメントスタイルが、幼児が養育者から必要なものを手に入れようとする時に、最も効果的な方法を決定するのに役立つモデルとなるからです。小さい時には、手に入れなければならないものがたくさんあります。幼児は、最初の親密な関係である親を観察し、それに基づいてスタイルのパターンを選び取ります。そして子供の頃は、そのアタッチメントスタイルを守り抜こうとします。それによって衣食住が満たされ、面倒をみてもらい、大人へと成長できる可能性が高まるからです。そして大人になってからも、親密な関係において同じスタイルを守り抜こうとします。心が、似たような重要なテーマにおいて、過去のパターンこそ、未来を予測するのに最良の因子だと判断するからです。

 アタッチメントスタイルには一般的に3つのスタイルがあると考えられています。ひとつは安定型で、このスタイルを持つ子供は、自信を持ち、愛され、大人になってからは、普通に人を好きになり、また相手にも好きになってくれることを期待しています。人間関係においては、誠実で、親密な関係を築き、惜しむことなく相手を助け、また必要とあれば相手からも助けを求めることができます。それもお互いに自立していると感じながら。

 不安定なアタッチメントスタイルには二つあります。とは言え、この二つはさほど固定されたものではなく、人は両方のスタイルを、その時々で、あるいは異なる相手に対して使い分けることがあります。

 不安モデル、あるいは不安型と呼ばれるものは、子供時代の一貫性のない子育てに起因しています。このパターンを持つ人たちは必要なものを得るために、養育者を喜ばせたり、しがみつくことを身につけなければなりませんでした。さもなければ、見捨てられたり、裏切られたり、別の子ばかりが気に入られる可能性があったからです。この不安定なスタイルを持ったまま大人になると、子供の頃と同じように、喜ばせたい、しがみつきたいという衝動(動因)や、見捨てられることへの不安を持つようになります。実際彼らは、親密な関係においてどこかアンビバレントな感情を持っています。つまり、親密になりたい、けれど心を開くことが怖い、という相反する感情です。

 回避型は、これに比べると子育てをする側(親の方の)のネグレクトや無関心の産物である場合が多い。このような状況では、泣いたり、しがみついたり、愛情を欲する行動、あるいは頼むことすら、さらに悪いケアに結び付きかねません。そこで子供たちは、養育者なしでも上手くやっているようなスタイルを身につけます。彼らのモットーは「強くなれ」です。しかしこのパターンに陥った子供たち(大人もそうですが)は、その表面上の平静さの裏に、いつも不安を抱えています。大人になると、彼らはいつも何か忙しくしているか、あるいは自己中心的なように見えます。おそらく、子供の時得られなかった安心感を自分に与えようと、そう感じさせてくれるものばかりに目を向けているのでしょう。また自分では“親密な”関係を求めていると話すかもしれません。しかし誰かが近づくと、彼らは身を引き、相手が諦めかけると、また相手に興味があるように振る舞います。不安型と回避型がカップルになることは実はよくあるのですが、二人とも相手に親密な関わり方を期待しているので、お互いに相手を惨めな気持ちにさせてしまいます。回避型のタイプを援助する時には、まず本人が、心を開いて自分が不安定なモデルを持っていることを受け入れる必要があるのかもしれません。

 では、不安定なアタッチメントスタイルを持つHSPは多いのでしょうか? 研究によって異なりますが、人口の約半分は、子供の頃不安定なアタッチメントを経験しているというデータがあり、もし、不安定なアタッチメントスタイルを持つHSPがいたら(特に自身の敏感さを理解していなかったら)、その敏感さと相まって、より強く影響されるかもしれません。ですから、先ほどの問いは、少なくともみなさんの約半分には当てはまります。そして境界線の問題の大きな要因となっているかもしれません。もしあなたが不安型のアタッチメントスタイルを持つHSPだったら、パートナーや友人に、親密すぎると思える境界線を望むかもしれません。相手と一体感を感じられる、そんな境界線を。でもその方法で、本当にあなたのニーズは満たされるでしょうか? そして、相手をもう片方のランク、例えば上位のランクに、寄り分けてしまっていないでしょうか? あるいはあなたが回避型のHSPだったら、相手とつながる一方で相手を遠ざけ、円が重ならないようにしているかもしれません。

アタッチメント、ランキング、そしてリンキング ― ではどうしたらいいのか

 さて、ランキングとリンキング、そしてアッタチメントの間の関係性、おわかりいただけたでしょうか? 安定したアタッチメントスタイルを持つ人の境界線は、状況に応じて柔軟で、他者を喜ばせたいと思いつつ、義務感からはせず、また相手にもそうあることを期待しています。子供の頃、彼らの両親の境界線(限界、ルール)は、はっきりと愛のため、あるいは愛に沿って存在していました。そして大人になった彼らの境界線は、可能な限りリンキングに基づいていて、自身のニーズを無視することはありません。

 不安定なアタッチメントスタイルを持つ人では、過去に低いランクを受け入れなければならなかった経験があり、その時記憶された内的モデル(※)が、親密になりたいと思う成人の相手に対しても、同じように振る舞うよう命じます。別れるタイミングや、別れを告げる側は、高いランクを持つ方にあると彼らは学んできました。だから、彼らの振る舞いはこう告げているのです―“あなたが望むものが何であれ、あなたを幸せな気持ちにするために私は何でもする―だから私のもとを去らないで”と。

※訳注::人は外部からの情報刺激を「受け入れ」「保持」「想起」つまり”記憶”し、新たな環境情報に接したときは、それが判断基準となる。これを内的モデル(inner model)という。

 回避型のアタッチメントスタイルを持つ人は、子供の頃、彼らの親によって低いランクを強いられたものの、ひれ伏してもどうにもならなかったことを経験しています。ですから、できるだけ早く高いランクに上り、自分の人生をコントロールしたいと思っています。そして大人になってもまだ、高いランクこそが最も安全だと感じています―「誰も必要じゃない、欲しいものはすべて持っている」と。彼らがナルシストのように見えたとしても、必ずしもそうではありません。親密な関係の中にいる時の彼らは、潜在的に弱い存在になっています(実は彼らは親密さを無意識に渇望している)。なんでもなさを装いながら、心の底では不安を感じています。だから、実際には次のようなことを意味することを口にします。「自分と親しくなりたければ、自分を喜ばせよ」「自分の言ったとおりにしろ」「自分を称賛しろ」「自分を必要としろ」「自分の高いランクを脅かすな」「お前は他の奴らとは違うことを証明しろ」と。

 不安定型のどのタイプであったとしても、このタイプのアタッチメントスタイルを持つ人と人生を共にするのは難しくなります。彼らの親の何が彼らをそうさせたのかはともかく、ランキングが家庭環境で優勢であったことは間違いありません。本物の愛とはどのようなものかを、彼らは知ることができなかったのです。あなたの、そしてパートナーのアタッチメントスタイルを知ることが、二人の境界線の敷き方に影響を与えます。そしてそれが大きなステップとなります。ただ、片方もしくは両方が不安定型だったら、何かをしようとしてもその大変さは倍増します。もし徐々に不安定型が安定型に変わっていくことがあるとしたら、それは、相手が不安から行動する場合があることを理解してくれ、そしてそんな時でも相手のそれ以外の側面を愛してくれる、安心できるパートナーがいる時になるでしょう。

 通常は、愛着問題を専門とする心理療法家との長いセラピーの中で変化が訪れます(これは認知行動療法ではなく、感情焦点化療法=エモーション・フォーカスト・セラピー(EFT)になるでしょう)。他にもアタッチメントスタイルに基づいたカップルセラピー(Emotion Focused Couples Therapy)もあり、親密な関係にある場合は、こちらの方が最適な治療方法かもしれません。

 優美な境界線についての私の話はここでお終いです。私も境界線を引いて、この辺で止めなければ! ここでお話ししたことが少しでもみなさんのお役に立ちますように。そして願わくば、みなさんが望むような円の重なりが実現できますように。

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