The Highly Sensitive Person

2021 Research on HSPs

HSPの研究動向 2021年

By Elaine - 28 Comments

 このサイトに目を通していたら、2017年を最後に、私はHSPの研究に関してブログを書いていないことに気がつきました! お詫び申し上げます。ただあまりに高敏感性(”感覚処理感受性(SPS)”ともいいます。ちなみに感覚処理(統合)障害とは無関係です)に関する研究が多くなりすぎて、今、ほとんどついていけてないのです。また彼ら研究者たちのことをほとんど私は知りませんし、しかも日本からトルコに至るまで彼らは世界中に存在しています。ただ、これだけ多くの研究が発表されているということは、このテーマ対する関心が今とても広がっているという証拠です。そう、HSP研究は大きく飛躍したのです!

 このブログでは、その最新研究のうちいくつかを要約してご紹介したいと思います。そしてこの後のブログではもう少し過去の、2018年から2020年のものを取り上げたいと思います。

研究に伴う避けがたい問題

 とはいえ、研究が増えてくるにつれ、避けがたい問題も出てきました。それはHSPについて与える印象が、的確というよりは、ネガティブな傾向になるということです。言い換えると、HSPは問題を持っているというバイアス(偏見)です。これには二つの理由があるように思えます。ひとつは、感受性差に注目した研究がほとんどないこと。感受性差とは、困難な子供時代を経て大人になったHSPは、同様の環境で育った非HSPよりも問題を持ちやすいが、恵まれた環境で育ったHSPは、逆に問題が少なく、むしろ健康に育つ、とする理論です。HSPは環境に敏感ですから、これは当然の結果でしょう。ただ、良い環境で育ったHSPがどれくらいの割合でいるかはわかりませんが、おそらく、多数派ではないと思われます。なにしろ親たちは、まだこの特性について何も知らなかったのですから。ですから、もしすべてのHSPの平均を取ったら、いくつかの研究が示唆しているように、HSPは問題を持っているように見えるかもしれません。しかし、それはHSPであることの美質、特に良い環境で育った時に”有利な感受性(※)”になることを見落としているのです。

※訳注:英語では“vantage sensitivity”。マイケル・プルースとジェイ・ベルスキーによって提唱された理論。ポジティブな環境や経験に対して、そこから恩恵を受けやすい人たちと、あまり受けない人たちがいるという、個人の反応に差があるとする理論。vantage(ヴァンテージ)には、優位・有利・利益という意味がある。HSPに関わる専門用語には、他にも感覚処理感受性(SPS)など複数の用語があるが、これは研究者が研究目的によって言葉(定義)を使い分けているためである。

 

HSP尺度の問題点と来るべき改訂版 

 このいくらかネガティブなバイアスを生む二つめの理由は、HSP尺度(※)にあります(このサイトに掲載されているHSPセルフテストより、少し長い研究用バージョンのこと)。オリジナルの尺度は1990年代の初期、まだ私たちの研究が始まったばかりの頃に作成されました。ですから当然、年月を経るうちに問題が出てくる運命にあったのです。ほとんどの項目はネガティブなものに関するものばかりですし、その表現もまたネガティブでした。”すぐに圧倒される”、”~な時不快になる”、”~するのがイヤだ”、”~の時混乱してしまう”、” ミスをしないよういつも気をつけている”、” 不快になり神経が高ぶる” 等々。

※訳注:尺度(スケール)とは心理測定などで用いる評価基準のこと。質問形式で項目が並んでいる。

 また、現行の尺度は、このネガティブな表現という問題のみならず、ほとんどの項目が刺激過多に関するものだという意味で、またネガティブだと言えます。DOESの中のそれ以外の要素―処理の深さ、共感性と感情の強さ、微妙なものへの敏感さ、を今の尺度ほとんど測定していません。また、みなさんもうお気づきだと思いますが、DOESの中ではこの”O”だけが、HSPであることの唯一の問題点です。にもかかわらず、刺激過多の項目だけが尺度を独占してしまっているのです!

 当然ながらこうしたネガティブさの強調は、後に続く数々の研究において、HSPは不安になりやすい、うつになりやすい、燃え尽きやすい、等々の研究結果を生むことになりました。ガルル…。研究者たちが、感受性差を調べる時に子供時代の経験を尋ねてくれたらよかったのですが…。あるいは、せめて研究結果で、可能性のある要因(因子)として感受性差に言及してくれていたらよかったのですが…。でもこうしたケースはいまだほとんどありません。その結果、不十分な研究がひっきりなしに現れることになったのです。

 そこで、私たちは、これまで欠けていたすべての要素を測る新しい尺度を作成することにしました。そしてグループとして今それに取り掛かっています。一緒に新しいアイテム(質問項目)を考え、テストし、そしてベストと思える60のアイテムを見つけ出しました。そしてその中から今、さらにベストとなるものを選び出しています。この尺度はこれまでの尺度と相関性が高い(=統計的に類似している)ものとなるでしょう。またそうあるべきです。なぜなら、これまでの尺度は、HSPをそうでなに人たちから抽出(選別)し、例えば、課題に対する脳の違いや、実験において両者の態度はどのように違うのかを示してくれているからです。

(上記のような問題の影響を最小限にとどめている)最新の研究

 以下に紹介する論文の要約は、(番号に続く””で囲んだ)論文のタイトルをコピー&ペーストして、Google Scholarで検索すれば見つけることができます。そして要約(abstract)を見つけ、その右側に何かが表示されていたら、それをクリックすれば論文の全文が表示される場合もあります。もし要約しか出ない場合は、たいてい、論文すべてを見るのに高額な料金を請求されるでしょう。ただあなたの地元の図書館や大学の図書館にアクセスすれば閲覧できる可能性があります。

※訳注:カッコの中の日本語タイトル名は、訳者が便宜的に訳したもので、このような日本語のタイトルがあるわけではありません。コピー&ペーストして検索する際は、英語のタイトルのみコピーしてください。


  • ”Sensory processing sensitivity behavior moderates the association between environmental harshness, unpredictability, and child socioemotional functioning”(”感覚処理感受性の行動は、過酷な環境・予測不可能性・子どもの社会情緒的機能との間の関係性の強さを変化させる”)という研究では、2年間にわたって、SPSの高い子ども(研究開始時3才前後)は、この特性を持たない子どもに比べ、不安定な家庭環境においていわゆる“扱いにくい行動”を起こす傾向があることを明らかにしました。この行動とは、喧嘩早い、攻撃的、怒りっぽい、といった態度です(外在化問題行動とも呼ばれています。とても年齢の低い子どもであることをお忘れなく)。一方、SPSの低い子どもたちは、こうした不安定な家庭環境に特に影響されることはありませんでした(子どもたちのSPS度は、HSP尺度ではなく、研究室における行動によって測定されている)。

     ”予測不可能性(※1)”については、家族の中の病気や死、引越し、両親の別居や離婚、主だったケアギバー(※2)の変化などが、どれくらいあったかを測定しています。ただ、厳しいしつけ(※3)が、HSCと非HSCの間で異なった影響を与えることはありませんでした。

     さらに、HSCの予測不可能性への影響は、別の研究でも明らかになりました。幼稚園に通うHSCは、他の子どもたちより不安定な子育てから影響を受けることがわかったのです。ただし、”悪い”子育て(例:子どもに甘すぎる、もしくは権威主義的な子育て)の影響については、他の子どもたちとの差は見られませんでした。この研究結果は、ほぼどのような環境にもHSCは順応できる―ただし絶え間ない変化を除いては、と言っているように思えます。これはあなたにも当てはまるのでは?

    まとめ:HSPは、将来の変化を予期できるようになった方がいいでしょう(これについては仏教の教えに触れてみて)。起こると分かっている変化(例えば引越し)に、どのように対処するか準備しておくのです。そして必要なら、その変化を受け入れ、嘆く準備もしておきます。” 喪失のない変化はなく、また嘆きのない変化もない”のですから。 何より覚えておいてほしいのは、HSPであるあなたにとって、変化に対する強い反応があったとしても、それはとても自然なことだということです。

    ※訳注1:予測不可能性とは、親の子どもに対する反応が、どれだけ不安定で、一貫性がないか指します。親の反応が一貫していることは、子どもの情緒の安定性に大切な役割を果たすとされています。この実験では、親の態度以外にも、家族内の離婚や死別など、様々な要素を予測不可能性として測定しています。

    ※訳注2:ケアギバーとは、乳幼児の世話をする養育者。親ではない場合も含まれる。
    ※訳注3:叩いたり、怒鳴ったりなど、懲罰的な厳しいしつけ

  • これはすごくいい論文です。“Sensory processing sensitivity predicts performance in an emotional antisaccade paradigm.”(”感覚処理感受性は、感情的なアンチサッカード実験におけるパフォーマンスを予測できる”) 。といってもこのタイトルを読んで、「いったい何のこと?」とみなさん髪をくしゃくしゃにするかもしれませんね。簡単に言ってしまえば、行動する前にどれだけ立ち止まれるかを測定した研究です。この場合は目の動きを測っています。実験参加者が点を見せられると、その点が動きます。そしてその点を追うように言われます(プロサッカード)。これはまあ自然な動きですよね。次にその動きと反対方向を見るように言われます(アンチサッカード)。その時、ゆっくりと動くよう指示されますが、これはその方がより努力を強いられるからです。この動作には、脳の強い“実行”機能が求められます。この研究では、研究対象として点と顔の表情の両方が用いられました。結果、HSPはHSPではない人たちよりもより”正確”でした。つまり、「反対の方向を見て」という指示に、平均より速い反応を示したのです。ただし、これは、点ではなく顔の感情的な表情にだけそうなりました。特に、無表情の顔と悲しい顔を見比べたときに。ちなみに、この結果は実験参加者のその時の気分とは無関係でした。

    まとめ:HSPであるあなたは、物事を、特に社会的な情報を、深いレベルにおいてより注意深く、より正確に処理できる。そしてそのことにもっと自信を持っていい(課題(仕事・業務)を深く検討するだけでなく、頼まれればそれをより素早く、そして自然と上手くこなすことができる)。これは統合失調症やADHD、自閉スペクトラムとは対照的である。別の研究によると、彼らはこうした課題に対する反応が遅いことがわかっています。

    ※訳注:この実験は、周囲の状況に応じて行動を抑制できるかどうかを測っています。行動の抑制には、大脳をはじめとした脳の複雑なネットワークが関わっていて、その基盤となる能力は実行機能と呼ばれています。実行機能は、情報を一時的に記憶し、それを使って作業を行い、行動・思考・感情を抑制します。別の言い方をすれば“課題を段取りよくこなす”能力だと言えます。パーキンソン病や統合失調症、うつ症状、睡眠障害、不安症、薬物依存症等の患者や、ADHD、ASD(自閉スペクトラム症)では、この実行機能が低下していると考えられています。

  • “Sensory Processing Sensitivity Moderates the Relationships Between Life Skills and Depressive Tendencies in University Students”( ”感覚処理感受性は、大学生のライフスキルと抑うつ傾向の関連性の強さを変化させる“)は、どういったライフスキル(意思決定スキル、対人関係スキル、効果的コミュニケーションスキル、情動対処スキル)が抑うつ傾向の低減に関連するかに着目しました。そしてHSPは非HSPと比較すると、情動対処スキルがとても重要であることがわかりました(対人関係スキルの低さはSPSの程度にかかわらず抑うつ傾向と関連し、意思決定スキルの低さは意外にもSPS傾向の低い人と関連していた)。

    まとめ:もしあなたにうつになりやすい傾向があるなら、情動対処スキルに目を向けてみて!

    ※訳注:この研究は矢野康介氏ら日本人研究者による研究です! https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jpr.12289

  • “Sensory-processing sensitivity and COVID-19 stress in a young population: The mediating role of resilience.”("若年層における感覚処理感受性とCOVID-19ストレス。レジリエンス(心の回復力)の媒介的役割")。この研究結果は、そんなに驚くようなものではないでしょう。HSPはこのパンデミックにおいて、ネガティブな影響をわずかに強く受けていました(ただその主要因は、明らかに私たちの気質ではなく、私たちの置かれた環境です)。ただし「私は大変なことがあってもすぐに立ち直りやすい方だ」・「ストレスフルな出来事から回復するのにそんなに時間がかからない」といっ項目を含む6項目の質問紙で測定したところ、回復力が十分にあると認められたHSPではこのようなことはありませんでした。これは、少なくとも部分的には、回復力の高い10代のHSPはよりポジティブな子育てを受けている結果であることは疑いようがなく、やはり良い環境や悪い環境に対する感受性差によるものであると思われます。

    ※訳注:この研究は日本人の飯村周平氏よる研究です! https://psyarxiv.com/2u6wq/

    まとめ:もし、このパンデミックの期間、HSPはどのような影響を受けていますか? と問われたら、こう答えることができるかもしれない―「10代のHSPを調査した研究によれば、HSPではない若者たちと平均して変わりませんでした。わずかに悪い影響を受ける場合がありますが、多くのHSPが、HSPでない人たちよりも、とても回復力が高いことを示しています。おそらくそれは感受性差によるものなのでしょう。つまり、HSPは今回の出来事により影響を受けていることは確かです。でもHSPはそれ以外のすべての出来事に対しても同様で、その中には、良い家庭環境からの良い影響もあるんです」と。
  • ”The role of sensory processing sensitivity and analytic mind-set in ethical decision-making.”(感覚処理感受性の役割と倫理的決断における分析的思考)。この研究で研究者たちは、実験参加者に2種類の倫理的問題を与えることで彼らの”思考”を巧みに操作しています。ひとつは問題を徹底的に考え抜く(慎重に検討する思考)、もうひとつは現実的で具体的な解決策を見つけることに取り組む(実現・遂行する思考)です。当然のことながら、HSPは慎重に検討する思考により優れたパフォーマンスを見せました。つまり”HSPらしいアプローチで問題を解決できた”のです。一方HSPでない人たちは、実現・遂行する思考により優れたパフォーマンスを示しました。この実験結果は、倫理的介入は画一的ではなく、個人が生まれつき持っている問題解決の傾向を考慮した方が良いことを示唆しています。

    まとめ:この研究は、私たちの特質の持つ側面=深い処理を明確に立証している。また私にとっては、”どのような状況においても、ひとつの問題解決方法がフィットするわけでない”という素晴らしいアドバイスが、研究として世に出てきたことを意味しています。
  • “Experiences of Adults High in the Personality Trait Sensory Processing Sensitivity: A Qualitative Study.”(感覚処理感受性の特性が高い成人の経験:定性的研究)。この研究はまさにこのタイトルが示す通り、経験豊富な研究者によって行われた綿密なインタビューをまとめたものです。この特性について現在わかっていることをベースにしながら、より詳細な情報を提供し、健康なHSPを育むための新しい仮説を提供しています。

    まとめ:一読の価値あり。

 こんなにも多くの研究を目にすることができるなんて、本当に素晴らしい。Google Scholarを利用すればもっとたくさんの論文を目にすることができるでしょう。でも、私はあまりそれをお勧めしません。というのは、論文の問題点を見抜くためには、詳細を読み込む方法を知らなければならないからです。その問題点とは、HSPの幼少期や現時点での生活ストレスを調べないまま、HSPが他の人より何らかの点で劣っていると結論づけることです。ただそれでも、HSPの研究は順調にきています。研究の数がさらに増えていけば、感覚処理感受性は、近い将来、教師やセラピスト、医者の教育の一環としてもっと議論されるようになるでしょう。素敵なことだと思いませんか?

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